使い方
リタイアメント(退職後資産)の計算は「毎月積立をする複利運用」とまったく同じ式ですが、時間軸が 30〜40 年と非常に長いため、入力値のわずかな差が最終残高で劇的に違って跳ね返ります。本ツールは「年金(毎月積立)型」の標準的な将来価値の式を月単位で回します:残高に月利を乗じる → 月々の積立額を加える → 翌月で同じ処理を繰り返す。これだけで、コツコツ積み立てた金額が「人生を変える金額」に育つ仕組みになる一方、「開始時期の遅れ」が想定以上に大きなコストになる理由も明確になります。 最大のレバーは「利回り」ではなく「積立率」です。年率 7% は第二次大戦後の米国株式市場の歴史的平均にほぼ近い水準で、退職後資金で「もっと取りに行く」となるとリスクが過大になりがちです。一方、いくら積み立てるかは自分で決められます。給与の 5% を 15% に上げれば積立額は 3 倍、最終残高もおよそ 3 倍になります。一般的な助言は「最初の就職から手取りの 15% を退職資産に」。それが難しい場合は、まず勤務先のマッチングを上限まで取り切る(マッチングはマッチ部分に対して即時 100% リターン — どんな投資もこれには勝てません)、その後キャッシュフローに応じて積立を増やすのが王道です。 実用上のポイント 3 つ。(1) インフレは名目利回りを「食べる」。年 7% 名目・年 3% インフレなら実質利回りは 4%。40 年では「15 倍に増える」のと「5 倍に増える」の違いです。本ツールは名目通貨で表示するため、最終残高を「今日の購買力」に直すには、頭の中でおよそ 30〜40% 割り引いて見るとよいでしょう。(2) 「4% 安全引き出しルール」は米国市場の長期データを分析した「Trinity Study」由来で、初年度に残高の 4% を引き出し、毎年インフレ調整しながら使うと、30 年の退職期間で枯渇しない確率が 95% 以上というもの。つまり 1 億円の老後資金は今日の購買力で年 400 万円・月 33 万円程度を支えます。本ツールはこの数字を直接表示します。(3) 税制は国ごとに大きく異なります。日本:iDeCo(拠出時所得控除、運用益非課税、受取時に退職所得控除または公的年金等控除)、つみたてNISA/新NISA(拠出は税引後、運用益・引出ともに非課税)、企業型確定拠出年金(DC)。米国:401k/伝統的 IRA は税前、Roth は税後。本ツールは税制中立で、表示は「税前残高」です。各制度に合わせて手取りに変換してください。
計算式
P は現在の退職資産残高。C はマッチング込みの月々の総積立額(本ツールは給与とマッチングルールから自動計算します)。r は月利で、想定年利から導出 — 株式中心の分散ポートフォリオなら長期の名目利回り 7% は妥当な前提値です。n は今日から退職までの月数。「4% ルール」は Trinity Study に基づくもので 30 年の退職期間を前提とします。退職期間がそれより長い場合(50 歳での早期退職など)は 3.0〜3.5%、短い場合(70 歳まで働く場合)は 5% も合理的です。
計算例
- 現在 30 歳、65 歳でリタイア(運用期間 35 年)。現在残高 400 万円、年収 800 万円、積立率 10%(月 6.7 万円)、勤務先マッチング 6% まで 50%(月 2 万円)。期待利回り 年 7%。
- 月々の総積立 C = 6.7 万 + 2 万 = 8.7 万円。月利 r = 0.07/12 ≈ 0.5833%。月数 n = 35 × 12 = 420。
- FV ≈ 400 万 × 11.0 + 8.7 万 × 1,719 ≈ 4,400 万 + 1 億 4,910 万 ≈ 約 1.93 億円。
- 4% ルールでの月次収入:1.93 億 × 0.04 / 12 ≈ 約 64 万円/月(将来の名目金額)。
よくある質問
老後のためにどれくらい貯めるべき?
一般的な目安は「マッチングを含めて手取りの 15%」、そして所得が発生した時点(最初は 5% でもいい)からすぐ始めることです。なぜ 15% かというと、年率 7% の実質利回りを前提に 25 歳から 65 歳まで 15% を積み立てると、退職時に年収のおよそ 11 倍に到達します。これで 4% ルールに沿って 30 年間の退職期間に、退職前所得の 75〜80% を置き換えられる水準。35 歳開始なら必要積立率はおよそ 25%、45 歳開始なら 40%以上が必要です。数字は厳しいですが、逆に言うと「25 歳での 1 万円」は「45 歳での 3 万円」に相当する仕事をしてくれる、というポジティブな話でもあります。20 代の少額積立が将来効いてくる仕組みです。15% を確保できないうちは、まず勤務先のマッチングを上限まで取り切ること(マッチ部分は 100% リターン)が最優先です。
どの利回りを前提にすべき?
30 年以上の長期投資で「保守的かつ妥当」な前提は、年 6〜7%(名目)です。S&P 500 の 1928 年以降の長期平均は名目で約 10% ですが、これは特定のピーク期を含んだ数字で、計画の前提値としてそのまま使うのは強気すぎます。そこから運用コスト・最適でない資産配分・行動的バイアス(暴落時の売却、高値での買い増し)で年 1〜2% 失われると考えると、6〜7% が現実的な水準です。ターゲットデート型ファンドや株式 60% / 債券 40% のバランス型なら 6% 寄り、100% グローバル株式で下落局面でも売らない規律があるなら 7% は十分妥当。「10% で計画」はやめましょう — 歴史的に特定の 10 年間でしか実現しなかった上限値であり、過大に見積もると静かに「老後に足りない」状態になります。
「4% ルール」は本当に安全?
Trinity Study(1998)に基づくと、米国型の分散ポートフォリオで 30 年の退職期間・引出率 4% なら、歴史データ上の成功率は約 95%。ただし以下の注意点があります。(1) Trinity は 2000 年以前のデータ。Wade Pfau や Michael Kitces による以降の更新、および米国外の長期株式リターンが米国より低いことを示す国際データを踏まえると、グローバルにはむしろ 3.5% の方が保守的に妥当。(2) このルールは 30 年想定。FIRE 型の早期退職(運用期間 40 年以上)の場合は 3.0〜3.25% まで引き下げるのが安全。(3)「リターン順序リスク」は非常に大きい — 退職直後 5 年の弱気相場は、平均利回りが良くても資産を恒久的に損なう可能性があります。現金バッファ、動的引出(下落年に支出を抑える)、債券ラダーなどで緩和できます。(4) 退職期間が短い場合(70 歳超まで働く、または余命に制約がある場合)は 5% でも十分妥当。本ツールは既定値として 4% を提示しますが、これは「会話の出発点」であって「絶対のルール」ではないと捉えてください。
税金は考慮されていますか?
本ツールは税金を考慮していません — 表示は税前残高・税前収入です。税制は国と口座種別によって大きく異なり、すべてを 1 つのモデルに押し込むと、多くのユーザーにとって誤解を招くか、複雑すぎて実用に耐えません。実務上の調整目安:日本の iDeCo / 企業型 DC は受取時に「退職所得控除」または「公的年金等控除」が適用されるため、税負担は低めですが完全非課税ではありません。新NISA は引出時非課税なので残高をそのまま使えます。米国の Traditional 401k/IRA は受取時に限界税率(通常 15〜25%)の課税になるので「(1 − 限界税率)」を掛けて手取りに直します。Roth は税後扱いなので調整不要。英国 SIPP、フランス PER、ドイツ Riester/Rürup などもそれぞれ独自ルールがあり、最終的な手取り試算は税制に詳しいファイナンシャルプランナーや国別ツールに任せるのが安全です。それでも、本ツールの税前プロジェクションは「自分の積立率がだいたい合っているか」「シナリオ間の相対比較(より多く積み立てた場合、運用期間を伸ばした場合)」を見るのには有効で、これらの相対比較は税制に依存しません。